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★特別企画★ 和歌山在住のマンガ家・小木ハム先生にインタビュー!

  • 執筆者の写真: 言友会 和歌山
    言友会 和歌山
  • 7月27日
  • 読了時間: 12分

 今回、和歌山県出身の漫画家、小木ハム先生にオンラインインタビューをする機会を頂きました!小木ハム先生(以下敬称略)は「2番セカンド」という野球漫画の作者です。「2番セカンド」は主人公の小倉あずき君が不登校や吃音症で悩みながらも野球を通じて成長するサクセスストーリーです。

 和歌山言友会としては初めてのインタビュー企画です。温かい目でご覧ください!

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~インタビュー本編~


【企画担当】

 2番セカンドを読みました。小木ハムさんが和歌山出身ということを知り、吃音症セルフヘルプグループ和歌山言友会としてインタビューをしたいと思い、今回のインタビューを企画しました。今回はオンライン形式でのインタビューとなり、記録には文字起こし機能を活用します。それでは、よろしくお願いします。


【インタビュアー】

 録音して文字起こしをするということで、吃音のある自分にとっては少し心配ですが、出来るだけゆっくりはっきり話すようにします。(笑) それでは、早速ですが小木ハムさんの経歴を教えて下さい。


【小木ハム】

 和歌山県橋本市の出身で父、母、姉が2人の家庭で育ちました。小学校の低学年の時に吃音があり、自分の言いたいことがすぐに出てこなかったり、言わずに閉じ込めてしまうことが時々ありました。「気にするから、余計につっかえてしまうのかな」と思い、なるべく気にしないようにしようと思ったことをよく覚えています。

 幸い、友だちからのからかいはなかったので、あまり悩むことなく学校生活を過ごせました。高学年の頃に、「最近はつっかえなくなったな、低学年の頃はよく連発していたな」と、ふと思い出したことをよく記憶しています。私個人の吃音は軽度で、身体的な面よりも精神的な面の影響が大きかったのかなと感じています。

 中学校3年間は学校に通っていない期間がありました。高校からは復帰でき、長く休んでいた反動か、勉強や部活を楽しく感じました。通っていた高校は住んでる地域からは少し離れている農業高校でした。土いじりは情動面で良い影響を与えると言われることもあり、精神的にもプラスに働いたのだと思います。

 高校卒業後は大学に4年間通わせてもらい、前職の会社に拾って頂きましたが、同期の子と比べて3年の空白期間があるため、劣等感を持っていました。そのため飲み会に参加しても同僚や上司の方と、腹を割って話すことが出来なかったことを、申し訳なかったなと思っています。その後、絵を描くことは元々得意だったので、自分の経験を漫画で社会に還元したいと思い、依願退職をして漫画家に転身しました。


【インタビュアー】

漫画家になろうとしたきっかけは何でしょうか?


【小木ハム】

 ノンフィクションライターの近藤 雄生さんが書かれた「伝えられないもどかしさ」という書籍を読んだことがひとつのきっかけです。吃音が原因で公務員試験に何度も落ち、福祉関係の仕事に就いた方の身に起きた事件について取り上げられている内容を読み、衝撃を受けました。他にも、保育園に上がる前に遊びで描いていた絵を両親に褒められたことや、絵画コンクールで賞状をもらったこと、社会人生活の体験なども現在の漫画家活動につながっていると感じています。


【インタビュアー】

 好きな漫画はありますか?


【小木ハム】

 ドラえもん、ブラックジャックをよく読んでいました。どちらも1話完結のスタイルで、自然と起承転結の構成を学べた気がします。お金がなかったので、同じ巻を何度も繰り返し読むことが多かった。それが自分の中に刷り込まれたのかなと感じています。


【インタビュアー】

 なぜ、吃音のある主人公の漫画を描こうと思ったのですか?


【小木ハム】

 吃音に関わる自分の体験と、案外身近にも吃音のある方がいらっしゃると気づくことがありました。吃音は身近なものなのに、その割には理解、認知がされていないと感じます。もっと社会に広めた方がいいのではないかということや、私自身に吃音があった頃、幸い、友だちにからかわれることはなかったけど、もし周囲が笑う子ばかりだったら、どもることを気にして、自分の吃音は治らなかったかもしれない。今も吃音が残っていたかもしれない。そうした体験から、吃音は他人事ではないと受け止めています。絵本や小説にすることも考えたのですが、認知度を高めるために親しみやすい漫画で表現しようと考えました。


【インタビュアー】

 なぜ、野球を題材にしようと思ったのですか?


【小木ハム】

 自分の中で一番身近で知っているスポーツだったこと、チームスポーツで仲間がいるということ、メンタルスポーツであるということの三点です。声出しをしないといけないスポーツなので、吃音だけど声出しを頑張る、というシーンを描きたかった。


【インタビュアー】

 主人公のあずきくんのモデルになった方はいますか?


【小木ハム】

 モデルはいないのですが、登場人物みんなに自分自身の要素が潜んでいると思います。

また、主人公あずきくんの尊敬している野球選手に向井選手という人物がいて、その人は実在している方をモデルにしています。バントの神様と呼ばれた元巨人・中日の川相昌弘という方がモデルです。


【インタビュアー】

 2番セカンドのお気に入りのキャラクターはいますか?


【小木ハム】

 みんな大事に思っていますが、特に主人公のあずきくんを大事に思っています。


【インタビュアー】

 2番セカンドを描くうえで周りからの反響はありましたか?


【小木ハム】

 インターネットや紙のお手紙で「励まされました」と応援のメッセージを頂くことがあり、中には心身のハンディキャップを持たれた方もいらっしゃいます。読者さまからの温かいメッセージを頂いた時はこの漫画を描いていて良かったと感じます。


【インタビュアー】

 感謝のメッセージを読者からいただけることはすごく嬉しいことですよね。

 ちなみに、作品作りに取り組む中で社会全体に対する思いに変化はありましたか?


【小木ハム】

 取材活動や文献を読んでいくなかで、吃音は個性だという方、前向きに考えている方、マイナスに受け止めている方、公にしている方、誰にも言わずに抱えて、カミングアウトもしていませんという方もいらっしゃいます。それぞれお立場があり、思いがあるので、どれが正しいとは言えませんが、自分の中で色々な方がいるんだという気づきがありました。なので、社会全体に向けて「これが正しいよ」といった言い切りはしない方がいいのかなという思いの変化がありました。


【インタビュアー】

 確かにそうですよね。同じ吃音がある方の中でも、いろんな意見があって、生活スタイルや考え方が全然違っているので、色々な方がいるのだなと思います。

それでも吃音があるという共通点だけで、色々な方と関わることが出来たこと、他の考え方が知ることが出来たので良かったこともありますね。

 作品の中で、主人公が自分の名前、小倉あずきって言う場面で詰まることが何回か出てくるのですが、そのシーンを見るたびにすごく「ウッ」ときちゃって、とてもリアルだなと思います。表現については、昔の吃音があった時の自分の体験を思い出して書いているのですか?


【小木ハム】

 そうですね。


【インタビュアー】

 イメージできるくらい表現がすごい。リアルだなと思うんですけれど。


【小木ハム】

 やっぱり自分の名前って一番言うことが多いと思うのですが、それがなかなか出てこない辛さはどう描いたらいいのかなというのは考えました。小説家の重松清さんという先生がいらっしゃるんですけど、その方の作品の中で瓶の中にアメが入ってて、そのアメを取り出そうとするんだけど、なかなか取れない。瓶の中にアメちゃんが入っているのは目では見えてるけど、なかなか取り出せないもどかしさが表現されていて、そういう場面を絵で表現しようと思って、自分の名前を言うシーンとは違いますが、作品の中で描かせて頂いたことはありますね。


【インタビュアー】

 そうなのですね。ありがとうございます。


【小木ハム】

 滑ってアメちゃんが出てこないことを、つっかえて言葉が出てこないことと、少し引っ掛けていますよね。そこで、そのような表現をしました。


【インタビュアー】

 そういった場面、主人公の小倉あずきくんが、吃音でどもってなかなか自分の名前が言えない時にそれでも黙ってじっと聞いてくれる友達や周りの人がいる、そういうシーンもすごく印象的なんですけれど、自分がそうしてほしかったという思いがあって、キャラクターを作成されてるんですね。


【小木ハム】

 そうですね。話そうとしているときは最後まで黙って聞いてほしいという願いを描いてますね。僕自身はあんまりどもって悔しいっていうところまでは感じたことがないですが、ちょっともどかしいなとは思ってはいたので。


【インタビュアー】

 そのシーンを見て、あずきくんのことを悪く言ったりする人もいるけれど、そうじゃない人もいるという言葉があったのをすごく覚えています。

 作品を通して理解してくれる方が増えていってほしいと思います。また、作品の中であずきくんとチームメンバーはあくまで野球の仲間として接しているというところが印象的で、吃音があるからといって特別扱いとかしていない感じがすごくいいなと思いますね。あずき君とチームメイトの距離感について意識して書かれているところはありますか?


【小木ハム】

 僕の体験そのままというか、別に吃音があっても気にしない子は全然気にしないので、そういう気にしない子を描くようにはしていますね。主人公が割と自分が活躍するよりチームメイトに活躍してほしいと思ってる子で、そのように動かしているので、「友達を活躍させる主役」という変わった面や、距離感をうまく描きたいなと思っています。


【インタビュアー】

 なるほど、ありがとうございます。セカンドというポジションで周りを支えつつ、支えるというところも重要な役割の主人公なので、難しいところはあるのかなと思うのですけれど、なんかその表現がすごく面白くて、私はあまり野球詳しくないんですが面白いなと読んでました。


【小木ハム】

 はい、ありがとうございます。


【インタビュアー】

 また時間を取ってどっぷり読みたいなと思っています!


【小木ハム】

 ありがとうございます!ぜひ!!


【企画担当】

 あずき君の良き理解者である「カヤゴン」なんかはあずきくんの吃音について踏み込んではいると思います。他のチームメイトはあずき君の話し方(吃音)に気づいてはいるけど触れていないのか、そもそもあずき君の話し方(吃音)を気にしていないのでしょうか?裏設定のような形だと思うのですが教えてください。


【小木ハム】

 そうですね、基本的にはもう全然気にしていないです。吃音という概念すら知らないという感じで描いていますね。僕が子どもの頃の、周囲の友だちの反応のような感覚で。


【企画担当】

 もう自分のチームの中の役割で精一杯という感じですね。


【小木ハム】

 そうですね。本当に気にしない人は気にしないので。僕は結構吃音が身近にあったので、普通に言葉がどもることもあるよね、という人が増えたらいいなと思っています。


【企画担当】 

 チームメイトから妬まれたりとか、チームメイトがエラーして落ち込んでるっていうシーンなんかも野球のチームの中ではよくあることかなっていうのはありますね。


【小木ハム】

 はい、そうですよね。


【企画担当】

 野球のことだけひたむきに頑張れるというか、あくまで野球のことで悩めるという環境はすごくいい環境だなと思って読ませてもらいました。


【小木ハム】

 ありがとうございます。


【記事担当】

 漫画のネタはいつもどこで仕入れているのでしょうか?


【小木ハム】

 基本的にはやっぱり読書からが多いですね。小説もですが、ちょっと科学的なものというと、先ほどもお伝えしたんですけど、結構僕は吃音というのは、精神的な部分も影響していると思っているので、メンタル関係、社会心理学関係の書籍からネタを引っ張ってくることは多いですね。


【記事担当】

 ありがとうございます。


【インタビュアー】

 この作品に込めたメッセージを教えていただきたいです。


【小木ハム】

 今、吃音のことでめちゃくちゃ悩まれている方や、吃音に限らず、それぞれ悩みがあったとして、それに救いの手を差し伸べてくれるのは、スーパーヒーローとは限らなくて、身近にいる地味な人であることは案外多いんじゃないですか、ということ。世間ではあまり評価されてなくて、目立たないような人が案外助けてくれていますよということを描きたくて、スポットライトを当てようと思って描いています。なので、目立つ人とか活躍してる人はもちろん凄いんですけど、地味にコツコツやってる人、自分の役割、言われたことをきちんと

しっかりやるっていうのもすごく大事な能力だと思うので、そんな人を大事にしていきましょう、評価していきましょうよ、という思いを伝えていけたらなと考えています。


【インタビュアー】

 漫画の展開の中で注目ポイントを教えていただきたいです。


【小木ハム】

 現在、主人公の周りのチームメイトたちを一話二話使って掘り下げているんですけど、最終的にチームメイト一人一人に助けてもらう展開というか、これまで主人公のあずきくんが、チームメイトを大事にしてきたから(信用を重ねてきたから)、そのぶんチームメイトに大事にされる、というところを一番の見どころにして描こうと思っているので、その点に注目して頂けたらなと思います!


【インタビュアー】

 ありがとうございます。今後の展開楽しみにしております!



~企画担当 あとがき~

 2番セカンドを始めて読んだ時、1話のあずき君の表情仕草や心の声に食い入って見てしまいました。吃音当事者として吃音症の症状を自覚し始めた小学生の頃のことを思い出し、繊細な部分まで描かれていることに驚きました。あずき君が野球に出会い、野球道具や野球を通じて成長していく過程も、元球児の私にとって親近感の沸くストーリーでした。50話時点であずき君は吃音症を克服できたわけでも、前向きに受け入れられたわけではないでしょう。でも、あずき君には野球と仲間がいる。これからあずき君がどんな時間を過ごすのか、読者として見守っていきたいと思います!

                           和歌山言友会企画担当



~紹介~

🥎2番セカンド

 吃音がきっかけで不登校になった少年・小倉あずきを孤独の闇から救ったのは、プロ野球選手、東都ナイツの向井信次郎。どんなブーイングや逆境にも負けない彼の背中と言葉を信じ、あずきは、外の世界へと踏み出していく。小さな勇気がみんなをつなぐ、ふれあいと共感の物語。    著者:小木ハム/本作がデビュー作。

 電子コミックURL:https://www.comicnettai.com/book/2

 単行本1~2巻はAmazon等で在庫があれば購入できます。

2番セカンド 表紙
2番セカンド 表紙

🥎小木ハム

 「2番セカンド」の作者。和歌山県出身。読書とジム、バナナと納豆とコーヒーがあれば機嫌が良い人。


🍊和歌山言友会

 2019年に設立。吃音症セルフヘルプグループとして、定期例会や勉強会、社会啓発活動を行っている。活動拠点は和歌山市内福祉施設およびオンライン。全国言友会連絡協議会に加盟。

 和歌山言友会X:https://x.com/wakayama_gk


 
 
 

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